ヒトはどのように癒されるのか?
淡路島の美しい海や緑は、大いに訪れるものを癒してくれる。ここで改めて人は美しいものや緑を見ると本当に癒されるのだろうか、という疑問に答える2つの研究を紹介したい。イギリスのサイエンティフィックリポートという科学雑誌に“幸福度はより景色の良いところで大きくなる”という題の論文が2019年に発表されている(C. I. Sereshine et al., Scientific reports (2019)9, 4498, https://doi.org/10.1038/s41598-019-40854-6)。イギリスでスマートフォーンのアプリに、Mappiness(MappingとHappinessをかけている)とScenic-Or-Not”というものがある。Mappinessでは、個人が日常自分がその時いる場所で、幸福に感じているかどうかをアップする。その結果を集めたデータベースから、どのような場所で人は幸福感をもつのか、わかることになり、イギリス国内全体での幸福に感じる場所のデータベースができている。Scenic-Or-Notは一種のゲームアプリで、自分がいる場所が景色が良いと感じられるかどうかを入力するものである。この結果から、国内の景色の良い場所を知るデータベースができている。論文では、この二つのサイトのデータベースを総合的に解析し、人はどのような場所(景色が良いかどうか)で幸福になり、癒されるかを考察している。結果は、当然のように景色の良いところでは人は癒される。データはこれを裏付けている。それでは心地よいと感じる景色とはどのようなものであろうか。結果の一つは自然や緑が豊富なところであり、予想通りだった。しかし、都市内の人工的なところでも景色はよいと感じる人は多く、またその人工的景色により癒されることがわかった。これはどういうことなのだろうか。
兵庫県立の淡路景観園芸学校(http://www.awaji.ac.jp)の豊田博士が、この疑問に答えてくれる。先生は、ストレスからの癒しや軽度の老人性痴ほうの改善を実現する具体的方法として園芸療法とよぶプログラムを推進し、園芸療法士を淡路島で養成している。このプログラムでは大脳生理学と園芸作業を組み合わせて研究し、園芸作業の繰り返しにより老人などの生活が改善されることを見出している。日常のストレスにより、人間は自律神経系の交感神経が過敏になり、ストレス対応のアドレナリンなどのホルモンが過剰に産生される。これを抑制し、癒しを達成するには、無意識の外界からの刺激が必要とこれまでの研究から示されている。無意識の刺激とは、頭を使わないで、ぼやっとしている時の感覚と言い換えられる。この無意識の刺激は、風景、緑の環境などで与えられる。それにより、交感神経の働きは抑制され、癒しの感覚がもたらされる。この無意識だが脳に影響する刺激は、結局非日常的なものともいえると、豊田博士は語る。芸術などがその代表とのことである。良い音楽を聴き、良い絵や工芸作品などを見ると癒されるのが、その例であるとのことである。都市空間でも、非日常的空間はデザインの行き届いた建物や庭園などでも同じ経験ができ、ヒトは癒される。
淡路島の際立った風景は、鳴門の渦潮や夕日などあげればきりがない。一方で、人が作った明石大橋はすでに一つの際立った景観となっており、見る人を惹きつける。