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毎日の歩行がアルツハイマー症を予防する

  脳の老化を防ぐために、芸術や音楽に関わることを推奨した(10月20日トピックス)ばかりだが、最新の研究成果では日常の歩行を積極的に継続することで良い結果になることが示された。

図 毎日5000から7500歩の歩行をするとアルツハイマー症の予防ができる。

  W.W.Yau博士らは老人性認知症の一種で記憶力や思考力が低下するアルツハイマー症と日常の歩行数との関係について、大規模な研究による結果に基づいた研究論文を最近発表している。(Physical activity as a modifiable risk factor in preclinical Alzheimer’s disease、 W.W. Yau, et al. Nature medicine (2025) Dec 4 issue)米国において296人の70歳前後のアルツハイマー症患者ではない被験者を対象にほぼ10年間毎日の歩行量(歩数計で実測)とアルツハイマー症に伴い変化する脳内のベータアミロイドタンパク質とタウタンパク質の量を継時的に測定し、認知機能テストの結果と合わせて認知症発症と毎日の歩行数との相関性を調べている。その結果、毎日5000歩から7500歩いている人は、アルツハイマー症になる要件である脳神経細胞内のベータアミロイドとタウタンパク質の蓄積が歩行数が多い人では少ない人に比べて少なく、毎日の歩行がアルツハイマー症になる予防の手段になることを明らかにした。

 ここでアルツハイマー病とベータアミロイドタンパク質およびタウタンパク質についてわかっていることを見てみよう。アミロイドタンパク質は神経細胞以外のほとんどの細胞において細胞膜に結合して存在していて正確にはアミロイドプレカーサータンパク質と呼ばれる(略してAPP)。下の図には細胞膜を横断する部分と細胞内と細胞外に突き出た部分があることを模式的に示してある。その機能は、膜にある細胞外からの情報の受容の機能をもち、神経細胞の保全に関わっている。細胞膜から細胞内表面に突出している部分は、タンパク質切断酵素によってできてから時間が経つと2段階で切断され廃棄され恒常性を保っている。切断される前も、切断された後も神経細胞の保全に関わるとされる。しかし、何らかの理由でこの切断酵素の2段階目であるベータセクレターゼという酵素の働きが鈍ると(老化か?)切断されなくなり、1段階目の切断(ガンマセクレターゼ)による産物のキレ残りが蓄積されアミロイドタンパクと呼ばれるタンパク質が蓄積する。この蓄積したアミロイドタンパク質は次にタウタンパク質と呼ばれる本来細胞内外の細胞接着や骨格構造に維持に機能するタンパク質に結合し、タウタンパク質のリン酸化(ATPからリン酸を供与される)とその蓄積を招く。リン酸化タウタンパクは細胞内で蓄積し塊(プラーク)になり、神経細胞の死を招くに至る。これがアルツハイマー症を発症することに繋がる。

図 神経細胞の中で老化にともないAPPから出来てくるアミロイドタンパク質とリン酸化タウタンパク質が蓄積しプラークという塊を作り神経細胞が死んでしまう道筋

 この経過を適度な運動によりどうして防げるのか、まだ不明な点は多い。しかし運動による脳内の血流の増大で上記のプロセスが抑えられると考えられる。また血流の増大で免疫系の細胞も活性化される。一石二鳥である。結論は、脳の血流を増大させるのに、今回の研究からは毎日5000から7500歩の歩行で十分であることが示されている。実行するのが難しくない提案である。