1. HOME
  2. ブログ
  3. 環境と生活
  4. 淡路島の自然にふれる散歩をしませんか

淡路島の自然にふれる散歩をしませんか

  淡路島の北は山地が多く残り、深い森や谷もあり自然が多く残されている。島の東側と西側には、それぞれ国道28号線と、県道31号線が南北に走っている。これらの道から別れて山に入る道(県道157号線など)を行くと、こうした森やその中の小道にそって自然を楽しむことができる。

淡路島北部の中央部の地図

  ここでは、こうした自然に触れてみたのでそのいくつかを紹介し、自然の多様性の保存の必要に思いを巡らせたい。

  淡路の北、高速道路の淡路インター近くの国道28号線から離れ県道157号線を行くと、淡路市野島常盤地区があり、ここには幾つもの溜池がある。その一つは、県立淡路景観園芸学校のそば、農家レストラン 陽燦々(はるさんさん)から歩いて10分ほどのところにある。ここを6月終わりの夜に歩いてみた。蛍を何度も見ることができた。水辺に近い竹の林の中に多く潜んでいた。ヘイケホタルである。蛍は日本には50種ほどいて、主だった2種はヘイケホタルとゲンジホタルである。ヘイケホタルは池のほとりや湿地のあたりにおり、ゲンジホタルは川沿いにいるという。いずれも水性の蛍で、一年の内9ヶ月は水の中で幼虫として暮らし、6月ごろに外に出てきて繁殖する。命はわずか10日ほどとのことである。その間に求愛行動の一つとして、光を放つ。青白い美しい光だ。しかし、川や溜池などの水のある場所は、今では護岸のため水辺の縁はコンクリートで固められ、これが蛍の繁殖を妨げる大きな要因となっている。また、強い光も苦手とのことで、昔からの自然環境の保全が必要なのがわかる。

淡路島の北の中央部の野辺を歩く。

  淡路の北の端にある岩屋にはかなりの数の人々が住んでいる。この町の中を通る里道を南に行くと、島のはずれの山々の中に入っていける。それを辿ってみた。谷間の道は川に沿っており、島の中央部から流れて来ており、小さいが滝もいくつもある。山間の道をさらに進んでいくと、すこし開けた里があり、農家が少しだがあり、水田も谷間の狭い平地に広がっている。周りの山々は広葉樹が多く日本の古代からの風景の森がびっしりと栗,楢、ブナなどの木々で埋まっている。少し開けた里の端にあるのは、立派なお寺で開鏡山観音寺という。鎌倉時代からあり、寺の一角には名馬“生月(イケズキ)”の生まれたところとしてこれを記念する石碑がある。イケズキは、平家物語に出てくる宇治川の場面の名馬であり、この地で生まれ育ったのだという。この山間の地は鎌倉時代には軍馬の生産地であり、それは明治時代にまで受け継がれたとのことである。この人気の少ない山間の地には1000年の歴史があり、人が営々と暮らしてきたことに、感慨を覚える。山間の道をさらに登っていくと稜線に近づき視界が開け、兵庫県立公園とニジゲンノモリが見えてくる。

淡路島の山間の窪地には水田や畑が緑の森に囲まれている。農家が少しだがある。

山間の谷にはいくつかの滝がある。

1000年昔からある開鏡山観音寺には名馬イケヅキの碑がある。

  ニジゲンノモリの前を通る県道157号線をさらに南下すると、淡路花桟敷(あわじはなさじき)の広い空間に遭遇する。ここを超えて10分ほどいくと中持という地区があり、農村風景が広がる。このあたりは、淡路島の北部の中央に位置し、周りは山で囲まれた窪地になっている。水田があり、多くの溜池がある。このあたりの畑や道端の雑草には日本古来のものがある。また外来種もあり、本来の日本の里山の環境がどのような草花からなっているのか、淡路景観園芸学校の澤田先生に一緒に歩き、教えていただいた。道端には、四十種類ぐらいの雑草があって名前を覚えるのも容易ではなかった(例えば:ネズミモチ、オオバコ、ウツギ、ミヤコグサ、ムラサキシキブ、カモガヤ、ヤブムラサキ、チガヤなど)。こうした多様な植物からなる、淡路の植生はセイタカアワダチソウに見られるような外来種に負けて、多様性が失われつつあるとのことである。澤田先生は、多様性を守るための実験を大学の圃場でおこなっており、道端の草の種を多数採取し、実験圃場でそれらを育種して、古代からの日本の草原を復活させる条件を植物生態学の立場から研究している。ヒトが道を整備したり、田畑を整備したりして草地を掘り固めると、本来の一年草から主にできる草原が失われてしまうとのことである。それを復活するには、毎年種から生えた草の茂る田畑を一度草刈りし一年草の増殖を助ける必要があるという。伝統の草刈りがなくなると、外来種が勝ってしまい、本来の植生がなくなるという。

野辺の草や花:上から、ノアザミ、ミヤコグサ、ムラサキシキブ、ノバラ

水辺にはガマがたくさん生えている。

 生物多様性の保たれた草地を野山に保全するには、外来種が蔓延る現在の里山では定期的な草刈りなど人による活動が必要とのことである。このような背景から水田の耕作がなくなった耕作放棄地には外来種が蔓延っている。澤田先生は、草地の環境を外来種のない本来の姿に保つことは、自然の中での食物連鎖を守ることになると言われた。いろいろな草花が生え、それらの小さかったり大きかったりする花々は、その種の保存のために利用する多くの昆虫や動物の標的になっているいう。この草花と昆虫や動物の織りなすネットワークは膨大で全てがわかっているわけではないが、永い自然の営みの結果であることは間違いない。いまの人間は既に多くのものを殺し、貴重なネットワークを破壊し続けている。絶滅品種、絶滅危惧種のリストはすでに膨大である。種の多様性を守ることは、このような背景から今の人間に課された課題ではないかと、澤田先生は提起している。この課題を自分のことと感じるために、淡路の里山を歩くのはとても良いことではないだろうか。