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続・代替肉とは何か。昆虫食とは?

  淡路島は食の豊かなところで、実際食料の地産地消も進んでいる。兵庫県や淡路市も淡路の食料自給率が高いと報じ、数年以内に100%の自給を目指している。一方で目を世界に向けると、人口の増加に伴いあと10年も経つと食料不足は深刻になると言われている。ウクライナ戦争でウクライナやロシアの小麦が出回らなくなり、アフリカなどの途上国では深刻な食料不足がおきていることが、昨年は盛んに報じられた。この食料不足に対処するために、タンパク源となる肉の不足には大豆など植物由来のものが脚光を浴びていることを、2022年7月の新着情報でお伝えした。テーマは代替肉とは何か?であった。ここでは、この続編として植物性の代替肉とは異なり昆虫をタンパク源にするという動きが世界で進んでいることを見てみたい。

  最新のイギリスの科学雑誌Nature(How France became the unlikely home of the insect farming industry, (2023) Feb.02 issue)のコメント欄に、フランスでは昆虫をタンパク源とする産業の育成がヨーロッパでもっとも進んでいると報じている。食の国フランスといえば美味しい肉料理を思い出すので、昆虫を食材とすることは受け入れられているのだろうか?という疑問がわく。しかし、フランスは、国による昆虫産業への支援が進んでおり、国の支援を受けたYunsect社ではカブトムシを大量に飼育して乾燥し家畜のタンパク質飼料として供給している。ドイツやアメリカでもベンチャー企業が昆虫をタンパク質源として販売する会社がスタートしている。SDGsや環境の悪化の回避の観点から代替肉や植物プラスチックの生産などの新規産業を育てる波が世界ではきていることが、こうした動向からみて取れる。それでは、日本ではどうであろうか?

日本の伝統、イナゴの甘露煮

  日本では、長野県(https://www.inadanikankou.jp/special/page/id=1110)や群馬県などで昔から稲を食い荒らすバッタであるイナゴを駆除する必要があり、駆除したイナゴを食用にしてきた。100年前には、ほとんどのヒトが常食にしていたという。こうした歴史や昆虫食の日本の現状は、内山昭一さんが詳しく述べている(昆虫食は美味しい、内山昭一著 (2019)新潮新書798)。

それによると、獲ったイナゴを2−3日置いて脱糞させ、その後炒めてから甘辛く佃煮にして食べている。アマゾンでもこれは現在販売されている(写真参照)。明治以前は肉食がなく、タンパク質は魚の仲間からであったので、海から遠い長野、群馬や東北の一部では、イナゴ、カイコの蛹、蜂の子、などが重要なタンパク源であった。こうしてみると、日本での昆虫食はいまに始まったことではないことがわかり、受け入れるのは可能のように見える。

 しかし、天然のイナゴ、バッタなどは天候などに左右され飼育も難しいので、常食にするのは難しい。このため、不足するタンパク源としての昆虫をヨーロッパのように飼育して栄養源にすることはできないのかという疑問が出てくる。興味深いことに、この試みはすでに徳島大学での研究を皮切りにスタートしている。徳島大学学長を務めた基礎生物学者の野地澄晴名誉教授は、自身の動物の発生の機構を解明する研究でコオロギを実験材料に使っていた。この経験から、飼育のし易さ(コオロギは雑食)、タンパク源としての潜在的な価値をコオロギに認めて、コオロギの栄養源としての研究を進めてきた(参考文献、最強の食材コオロギフードが地球を救う。(2021)小学館新書)。現在は、この流れの中でバイオのベンチャー企業グリラス社(https://gryllus.jp/about-us/company.html)が立ち上がり、コオロギ(フタホシコオロギ、gryllusが学名)の粉末をたんぱく源として販売するに至っている。このコオロギ粉末をいれたチョコレート味のクッキーやせんべいが無印良品から販売されている(写真)。さらに、大量飼育の機会をトヨタ系の会社(ジュイテクト社)と共同で開発している。

無印良品のコオロギせんべいとチョコクッキー

  そもそもなぜ昆虫、特にコオロギなのだろうか。昆虫のタンパク質含量は、牛などの肉の3倍ほど高い。牛の肉100グラムに含まれるタンパク質は20グラムに対して、昆虫では60グラムである。また、コオロギの成長ははやく、一世代は35日である。従って、同じ重量のタンパク質を生産するのに昆虫ではコストも低い。飼育の飼料は、昆虫では牛の肉の2割の費用ですみ、飼育コストも低い。畜産では、多量の水が必要で、飼料の牧草の生産のための広大な敷地が必要である。排泄物の環境汚染も問題となっている。これに比べてコオロギを大量飼育し食用にするのは、理に叶っているといえよう。

タイ製のコオロギの食用粉末

  世界の食糧不足や環境問題で、畜産には限界があるという世界のトレンドだが、それではそれにコオロギやカブトムシが代わる材料となる日はくるのだろうか。インターネット上では、理由は明確ではないが、安全性を含めてコオロギの利用に強く反対する意見が多い。結局、多くのヒトが受け入れるには食べたときに美味しいと思えるかというのが鍵のように思われる。内山さんの著書には、コオロギを含めたさまざまな昆虫の美味しいところ、美味しい食べ方が述べられていてとても参考になる。コオロギの粉末やイナゴの佃煮は、香ばしいという感想が多い。コオロギの場合は飼育する餌に柚子などを含めると美味しくなるとあり、昆虫は飼育で風味を変えられそうである。こうしてみると、さらに何かを加えてみんなが食べたいと思える食品ができるかどうかが、今後の決め手のようにも思われる。