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連載;ライフサイエンスの基礎−2 生命に必要なエネルギーとは?

 国連が提唱するSDGs(持続可能な開発ゴール17箇条)には、7番目に“エルギーをみんなに そしてクリーンに”とある。淡路島では、島内で使うエネルギーを自前にする目標を立て、2050年までに太陽光、風力、潮流、バイオマス(主として竹を使う)、バイオエタノールなどを使って目標を達成しようとしている。2018年度の段階で島内で使うエネルギーの33パーセントを自前(発電)でできているという。地球温暖化が喫緊の課題となる中、努力が目で見える形になりつつある。

ところで、エネルギーとは何か、またわれわれ人間もエネルギーが生きていく上に必要だが、一体われわれに必要なエネルギーとは何かということにここでは触れたい。まずエネルギーに関する基本事項をここでは見てみよう。太陽光、原子力、風力など異なるエネルギー産生の手段はだれでも知っている。太陽光エネルギーは、太陽の熱エネルギー(光エネルギー)を電気に変えている。原子力はウランなどの原子核に閉じ込められているエネルギーであり、これを熱に変えて蒸気を作りタービンを回し発電する。風力は風の流れというエネルギーを風車で捕捉し発電するのに使われる。このようにエネルギーとは見た目は違う形をしていても相互に変換できることがわかる。エネルギーの単位はカロリーやジュールという用語で決められている。1カロリーは水1mlを1度Cあげるものであり、4.17ジュールである。また、そもそもエネルギーとは辞書によれば仕事をする能力とある。水の温度を1度あげる仕事に必要な熱量であるが、原子核の中にも、また分子の中にもエネルギーは詰まっている。

エネルギーの形と相互変換

  われわれがエネルギーを得るためにお米やパン、うどんなどを食するのは、それらにある澱粉の分子の中に溜められているエネルギーを取り出して使うためである。具体的には、澱粉はまずブドウ糖分子に唾液の中や小腸の中にある酵素アミラーゼとマルターゼにより小さな分子であるブドウ糖にまで分解される。ブドウ糖は小腸から血管に入り体全体の細胞に配られる。ブドウ糖は炭素が6、水素が12、酸素が6繋がってできており、2酸化炭素と水から太陽のエネルギーを緑色植物などが利用して作られる。すなわち、これらの原子を繋げるのに太陽のエネルギーが使われている。一方、ブドウ糖はわれわれの細胞内で壊されて再び2酸化炭素と水になる。この時に、原子をつなげるために使われたエネルギーが取り出されて、別の化学分子であるATPに蓄えなおされる。ATPは図に示すような分子であり、ブドウ糖とは全く違う構造をしている。分子内に3つのリン(P)が繋がっている。この2番目と3番目を繋ぐところにブドウ糖を体内(細胞内)で壊した際にうみ出されるエネルギーが移って溜められている。エネルギーの量は、3.7Kcalである。

生物学的エネルギーATPの利用と再生サイクル

このATPに貯められたエネルギーは何に使われるのだろうか。エネルギーは仕事(生物学的仕事)をするのに使われるものと定義されている。それではわれわれの体内でエネルギーを必要とする生物学的仕事とはなんであろうか。生物学的仕事は大きく3つに分けられる。

  われわれが子供の頃には自分の体が大きくなることが仕事であったともいえる。このためにはエネルギーが必要となる。食べたものを元に体を作る。肉をたべてその構成物質であるアミノ酸から自分用のタンパク質を作るのにエネルギーが必要である。子供の頃の体の成長のほかに、大人でも細胞は定期的に廃棄があり、これに見合う細胞の新生がある(新陳代謝という)。皮膚や小腸の表皮細胞などで顕著にみられ、長くても一ヶ月ほど経つと、古い細胞は壊れ新規なものに置き換わる。このために大きなエネルギーが必要となる。ここまで述べた細胞の新しい合成が生物学的仕事の1番目のグループである。

 第2番目は、わかり易い生物学的仕事のグループである。目が見えること、足や手を動かすことなどである。これ等の多くには筋肉を動かすことが関わっており、そのためにエネルギーが必要となる。

生物学的仕事の3番目のグループは少し分かりにくい。実際には、次のようなものである。我々の体は内部の環境がなるべく変動しないようになっている。これを専門用語では恒常性の維持という。恒常性の維持の例として、体温は36度前後に保たれていること。また、体の中にある水にはいろいろなものが溶けているが、その濃度は一定に保たれていること。などである。実際に血液中の糖の量は一定であるし、ナトリュームやカリューム、カルシュームもそうであることなどが挙げられる。これらをまとめて体内の浸透圧の維持という。この浸透圧の維持を含む恒常性の維持にも、多くのエネルギーが使われる。ここでは詳しくは述べないが、脳で神経細胞が働きその結果頭が働くことになるが、この仕組みには浸透圧の維持の仕組みが関わっている。

 安静時の臓器別のエネルギーの使用量は、筋肉が全体の38%、肝臓が12%、胃が8%、腎臓が8%、脾臓が6%、心臓が4%、脳が3%である。しかし体を動かすとこの臓器別のエネルギーの使用量は大きく変化する。そのトップは脳となり、全体消費量の20%に増え臓器全体のトップとなる。相対的には筋肉よりもその必要量の体全体に対する割合は多くなる。朝ご飯を食べないと頭が働かないのである。

ここからは、一旦ブドウ糖をもとに作られたエネルギー貯蔵物質であるATPがどのように筋肉を動かすのかを見てみよう。

アクチンとミオシンとATPが関わる筋肉の収縮の仕組み

筋肉には、2つの異なるタンパク質があって収縮と弛緩に関わっている(図参照)。アクチンとミオシンである。アクチンは球状のタンパク質でたくさんのアクチンが繋がって糸状をなしている。ミオシンは複数が束のようになっていて、一つ一つの分子には突起のような構造が突き出ている。この突起とアクチンが結合したり、乖離したりすることで筋肉の収縮が起きる。図のようにアクチンの糸の一端は筋肉細胞の中の基盤となるタンパク質に結合している。アクチンの糸は何本も基盤からでていて、基盤はいくつも筋肉細胞内にある。このアクチンの束の中にミオシンの束が埋め込まれたようになっている。ミオシンも糸状で突起とは反対のお尻の部分同士が結合し、突起を2つ出した対称的な構造を作っている。突起の部分がアクチンと結合したり離れたりするたびにミオシンの突起部分の結合位置はアクチンの上を前進する。左右対称なので、2つのアクチンの糸は恰もミオシンによって手繰り寄せられることになる。このためアクチンに接し結合しいている2つの基盤は接近し収縮がなりたつ。ATPはミオシンがアクチンに結合したり離れたりすることに使われている。すなわち、ミオシンはATPが結合していない状態、結合した状態、結合後に、ADPとPiに加水分解され、さらに脱離するという状態変化を起こし、その度ごとにミオシンの分子構造も変化する。こうした連続する一連の出来事により収縮が完了する。この収縮の引き金を引くのは神経細胞から筋肉細胞に向けて分泌される伝達物質である。また、この引き金が引かれると、筋肉細胞内のカルシュームの濃度があがり、これがきっかけとなりアクチンとミオシンの相互作用が開始される。一方、筋肉の弛緩は、カルシュームの細胞内濃度の低下が起きることによる。

   筋肉の収縮の仕組みにエルギーを蓄えたATPをどのように使っているのか詳しく見てみた。脳が働くのも、目が見えるのも、耳が聞こえるのも、基本的には同じ原理が働いている。それぞれの仕組みには、ATPを結合し、分解し、解離するそれぞれに特別なATP結合能をもつタンパク質が関わっている。ATPとこれ等のタンパク質の関わり方のステップでそれぞれのタンパク質の構造が変わることが、脳が働き、目が見るということに繋がっている。このプロセスでATPのエネルギーはADPとPiに分解する時に消費される。ADPは食事で得たブドウ糖のエネルギーを取り込んでATPとして再生する。再生したATPを積算すると毎日20Kgに達するという。