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腸内細菌は多様であることがわれわれの健康には大切!

  健康の維持には腸の状態を良くする必要があることは、このHPでもすでに2度ほど最新の研究について紹介している。その一つは、“腸内細菌は私たちの免疫の能力をあげ、感染病を引き起こす外来の細菌やウイルスに対抗する”である。(2023年6月19日新着情報)。もう一つは、“100歳以上の高齢者の腸内には感染菌を殺す様な胆汁酸を作る特別な細菌が多くいる”、という報告であった(2022年1月17日新着情報)。すなわち、腸内細菌の働きにより免疫系が活性化する場合と、腸内細菌の分泌する物質に殺菌性がある場合の2通りが明らかにされている。最近、これらに加えて別の理由で腸内細菌が感染菌の増殖を防ぐのに貢献していることが示された。

  すでに指摘されているように、腸内細菌のもつわれわれの健康維持のための能力は、一種類の細菌だけでは不十分で幾つも異なる細菌種が集まった状態(腸内細菌叢という)が不可欠であるという。例えばこれに関連して精神的に落ち込んだヒトには健康なヒトの糞便を人工的に腸に移植することで、病気が治癒され得るということも知られている。しかし、こうした研究では、なぜ複数の種類の異なる腸内細菌が作る細菌叢の存在が、健康をもたらす条件であるかについては科学的な研究は少ないようにみられる。最近米国のScience誌にこの謎を解く鍵となる研究の成果が報告されているので紹介したい(Microbiome diversity protects against pathogens by nutrient blocking, F. Spragge et al. Science (2023) 382, p1259)

 F. Spragge らは、腸内細菌と感染菌との関係を試験管内で再現する実験系をまず作った。感染を起こす菌としては、代表的なクレブシエラ菌(K. pneumoniae)とサルモネラ菌(S. typhimurium)を選び、また腸内細菌としてはすでに分離されている50種以上を選んでいる。これらの細菌を試験管内で培養した。まず腸内細菌を培養しておき、これに2種の感染症菌を加えて培養する実験と、もう一つ別に腸内細菌と感染症菌を同時にまぜて培養するタイプの2種の実験をし、感染菌の増殖が抑えられる条件を見つけている。すなわち、これらの実験から次のような結果が得られている。(1)腸内細菌を一種ずつそれぞれ単独で培養しても感染症菌の増殖を抑えられなかった。しかし、(2)数十種を同時に培養すると、感染症菌の増殖は抑えられていた。また、(3)組み合わせる腸内細菌の種類を増やすと、その組み合わせの数が大きいほど感染菌の増殖は抑えられた。さらに興味深いことに、(4)腸内細菌としては大腸菌(Escherichia coli)の仲間が必ず一種類入っていることが感染菌増殖阻害には必要であることが示されている。この感染菌に対する腸内細菌群の増殖阻止は、さらに無菌的に飼育された実験ネズミを使った腸内実験でも再現されている。次に、解析に用いた腸内細菌のそれぞれの全DNAの遺伝子解析が腸内細菌と感染菌の両方で行われている。から感染菌の増殖を抑える効果があるのは、遺伝子群が感染菌に似通ったものであり、一方でそれぞれ腸内細菌で少しづつ遺伝子構成が異なることが必要であることが明らかにされた。

 こうした一連の実験から、F. Spraggeらは次のような結論を導いている。すなわち、感染菌の増殖は、その栄養源が先に他の腸内細菌によって消費されることで抑えられるということである。遺伝子組成が近いことでそれぞれの腸内細菌が必要とする栄養素群が近いことが考えられた。実際消費される栄養素の中身の解析も行われ、仮説を支持する結果が得られている。腸内細菌の種類が多いことで、消費すべき栄養素が幅広くカバーでき、結果として感染菌の栄養が奪われ、その増殖が抑えられるのである。

 大腸菌が腸内細菌群に加わることが、感染症菌の増殖阻害にはつねに必要となったことについても、筆者らはその理由を解明している。大腸菌と感染症菌のみが栄養素として利用できる物質としてガラクチオールという糖アルコールを発見している。大腸菌以外の腸内細菌はこの糖アルコールを栄養にできない。したがって、腸内に存在するガラクチオールを大腸菌のみが感染症菌の栄養源となることを阻止しているのである。興味深いことに、筆者らは抗生物質が効かなくなった薬剤耐性菌の増殖阻害も、腸内細菌群を共存させることで成功している。

  健康な腸内細菌叢はどのようにすれば作り出せるのか、という問いにはすでに多くの研究で必要な生活習慣や食習慣について語られている。例えば、ヨーグルトを飲むこと、甘酒を飲むこと、特別な乳酸菌を含む飲料を飲むことなどである。ここに示した最新の研究結果も思い出してこれらを再度振り返る必要がありそうである。