1. HOME
  2. ブログ
  3. 環境と生活
  4. 肥満と食物の中の糖分のこと

肥満と食物の中の糖分のこと

食べるものが豊富な現在、肥満は社会問題となっている。肥満は高血圧や糖尿病の原因となり体にとって危険を伴うシグナルであり、食生活、運動量、ストレスなどが原因として関連する生活習慣病に位置付けられている。2023年の段階で、日本人の男性の33%、女性の21%が肥満(BMI 25以上)となっている。米国では、男性の42パーセントであり、超肥満9%を含めると男性の二人に一人は肥満である。生活習慣病となると医療費がかかり、国の保険システムを圧迫するので、社会問題となる。

  肥満は体に必要なエネルギーが過剰に食物から供給された結果、余剰分が脂肪として臓器や筋肉や皮下に蓄積されている状態である。この肥満についてさらに細胞内の仕組みについて詳しく生化学のレベルで述べた本が上梓されている。R.A. Johnson博士による“肥満の科学 (ヒトはなぜ太るのか?)”という題のもの(日本語訳、NHK出版,2024年)で、興味深い内容なので一部をここで簡単に紹介したい。

  本書では熊などの動物が冬眠する際に、たくさんの木の実を食べ皮下脂肪を冬眠中のエネルギー源として確保するということから話を始めている。冬眠のための肥満は動物が自分を守る仕組みであり、人間にとっても同じように妊娠中に若干の肥満の方が子供を守ることになったり、老化や病気の場合でも肥満傾向の人の方が守られる可能性があると説いている。寿命も若干太り気味の人の方が永い、というデータもある。すなわち、すべての肥満が悪いわけではないと述べている。BMIは肥満の指標だが、肥満と判定される25以上でも、血圧、血糖が正常な人もいる。しかし、こうした肥満は例外的とも言える。普通の肥満は、高血圧や糖尿病を起こす原因となる。高血圧は心臓発作や脳溢血を起こしやすくする。免疫系を低下させることにもなる。一方、肥満は自己防御の仕組みとして私たちの細胞の中に組み込まれていて、食生活によっては容易に発動することを強調している。

  私たちのエネルギー源はご飯、うどん、パンに含まれるブドウ糖などの糖分が占める割合が多い。細胞に取り込まれたこうした糖分は、ミトコンドリアに運ばれ呼吸で取り込まれた酸素を使って壊され二酸化炭素になり体外に排出される。また植物が太陽のエネルギーを使って排出された二酸化炭素を使い糖を再生するサイクルが自然界にはある。糖分子は壊される途中で、その中に保持されていたエネルギーがATPというネルギーを蓄える分子内に移動する。ATPは筋肉の収縮、タンパク質の合成、神経の働きなどヒトのすべての機能を支える仕組みに使われている。

  過食をすると、当然ATPも過剰になる。すると、ミトコンドリアの中の酵素の一つ(イソクエン酸デキヒドロゲナーゼ)が過剰になったATPにより機能しなくなる。その結果、ATPを作るためにブドウ糖分子からできてきたクエン酸が使われなくなり、ミトコンドリアから細胞質へ出ていく。この結果ATPの合成は低下し、さらに細胞質に出たクエン酸から脂肪の元となる脂肪酸が作られる。脂肪は、肝臓、筋肉、皮下の脂肪細胞に蓄積される。これが肥満の元となる。もし絶食によるダイエットをすると、貯められた脂肪細胞の中の脂肪が壊され脂肪酸ができミトコンドリアの中でATPを作る元となるアセチルCoAという物質に変換され、最終的にATPが作られる。

  Johnson博士の著書では、肥満に関して問題となるのは果糖(フルクトース)だという。ヒトが食す砂糖はショ糖と呼ばれブドウ糖と果糖が連結した分子である。果糖は、細胞に入るとATPからP(りん)をもらいりんを結合した分子に変換される。この分子がATPを作る過程に投入される。一方、このプロセスにより沢山のATPが使われることになり、ADPができる。ADPは壊れて尿酸に変換される。尿酸は、ミトコンドリアに働き、クエン酸を細胞質に移動させ脂肪を作ることにつながる。この仕組みによって果糖を食すると自己防御の仕組みである肥満につながるスイッチが入るとJohnson博士は多くの実験結果を紹介し、提案している。ブドウ糖を食した場合には、このような乳酸の合成はないという。果糖は果物の中やハチミツに多く含まれる。また、食品添加物の中にとうもろこしから大量に抽出された果糖が甘み成分として加えられている。米国での肥満はこの果糖の人工甘味料を含む飲料や食品が多量に消費されており、肥満の主な原因となっているとJohnson博士らは結論している。

図 ”肥満の科学” R.J. Johnson著の要点の概略を図に示している。

 結局のところ何を食べるのがよいのか? Johnson博士らは、なるべく加工されていない生の材料を調理して食することを薦めている。加工された食品には、人工抽出の果糖のようなものが多量に入っていて、肥満さらには生活習慣病に至る危険をその著書で警告している。結局、食品添加物の表示をよく見て食品を購入することやなるべく加工食品特に人工的な甘味料を避けることが肥満を防ぐには大切のようである。