老化を遅らせるには?
淡路島の大きな課題は、日本の他の地域と同じように住民の老齢化である。
すでに三人に一人は、65歳を超えている。しかし、淡路では、農業に従事して生涯現役を続ける人が多いことは心強い。淡路市では健康の維持に、“いきいき100歳体操”を提案している(https://www.city.awaji.lg.jp/site/awajiiki100/)。
体を動かすことは大切だが、老化に対抗するには食も大切である。最近よく目にするのは、フレイルという言葉である。これは、Frailty(弱さ、脆さ)という言葉から来ており、年齢を重ねて体重が減り、握力や筋力も低下する(サルコペニアとも言う)ことなど、体の各部が弱くなることをさす。この肉体的フレイルの他に、精神的フレイルや社会的フレイルも問題となっている。要介護の段階と、健常な段階の中間がフレイルで、これから日本が抱える大問題である。しかし、肉体的フレイルは避けがたいことではあるが、運動と適切な食事によりこれを遅らせることはできる。
たんぱく質、糖質、脂質がヒトの取るべき3大栄養素である。日本では、米が主食であり、糖質は十分であろう。一方で、たんぱく質の摂取をより多くすることがいろいろな場面で提唱されている。もちろん、これに対しては各種の肉類の摂取がてっとり早い。毎食25−30グラム(1日当り25−90グラム)の肉を食することができれば良いといわれている。統計では、60歳台は1日73グラム、70歳台は69グラムを食べているというデータもあり、加齢に伴い減少傾向にあるので、なるべく多く取ることが推奨されている。一方、糖質の摂取が多すぎたりして、取らないほうが良いという意見や出版物も多い。しかし、老齢者は、バランスよくご飯も食べたほうがよいという意見も多い。脂質として青い魚に多く含まれるEPA, DHA(不飽和脂肪酸)を多く取ることで、血管の弾力性がます。それにより血管傷害である脳内出血や、心筋梗塞などを防ぐことができる(参考例;武庫川女子大学栄養科学研究所(https://www.mukogawa-u.ac.jp/~rins/support/support.html、女子栄養大学栄養科学研究所(https://www.eiyo.ac.jp/ions/?p=3807)。100歳で亡くなった日野原重明医師は、毎日朝に不飽和脂肪酸を含むオリーブ油を摂ったと述べている。
最近の生命科学の進歩により“老い”や“寿命”について細胞内の仕組みの一端が明らかにされつつある。この進歩について、最近ハーバード大教授のD.シンクレアらは、”Life span; 老いなき世界“という本を出版した(2020年、倉田幸信 訳、東洋経済新報社)。また老化に関する専門論文も出されている(NAD+代謝・サーチュインと幹細胞、五十嵐正樹、(2017)生化学、80、p555)。ここでこれらの情報について少し触れたい。人間が生まれる時、はじめは母親の中で一つの細胞(受精卵)に過ぎないが、生まれた時には60兆の細胞に増えている。この妊娠期間にはDNAに書かれた遺伝子の情報が、時間を追って順番に読み取られ、それによりできたタンパク質の働きにより、目や口をはじめとした臓器が作られる。この成長の変化は20歳台まで続くが、それ以降は老化が始まる。老化において誕生の時のように遺伝子の働きに順番があるのか、よくわからない部分が多い。
これに関連し、ノーベル賞受賞の山中博士は、老化した人の細胞では一部の遺伝子が働かなくっていると考え、細胞の外から特定の遺伝子DNAを注入し人為的に機能させてみた。この結果、細胞が若返り臓器を再度生み出す能力が得られた。これは遺伝子の働きと老化が関係していると思わせる。DNAができる時に付加される化学物質(メチル基)は、老化とともにその量が少なくなることがわかっている。さらに、DNAに結合するヒストンというタンパク質に結合する化合物(アセチル基)の量も老化により変動する。これらの物質の付加の変動は、最終的にはできるタンパク質の量の変動につながり、必要な時に必要な遺伝子が働かず、必要なタンパク質ができなくなることを示している。シンクレア博士の著書では、このような事態の積み重ねが老化ではなかろうかと議論している。また、この著書には、これらの老化に伴う変化に対処する方法が書かれている。その一つは、アセチル化を減らす酵素の働きを高めると、老化が遅れること、またこの酵素の働きを高め老化を遅らせるビタミン関連の物質があることが書かれている。今、このビタミン関連物質(NMN; ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、ネットで高額だが販売されている。 ビタミンの十分な補給は体の維持はもちろん、老齢化対策にも必要である。ビタミンを多く含むフルーツの日本人の消費量は世界で最も良く食するオランダ人の3分の1に過ぎない。米国人などに比べても半分に過ぎない。淡路島では、びわやイチジク、みかん、いちごなどフルーツの生産農家が多い。淡路のフルーツを食べて、地方創生とヒトの老化や健康対策に貢献できるのではないだろうか。