淡路島の新しい農業;堆肥を活かした新農業の試み
淡路島の玉葱、トマト、レタスなどその甘みや食感の良さは関西の家庭ではよく知られ、高い評価を受けている。こうした作物をつくる淡路農業とはどのようなものなのか、その問題や未来に向けた試みなどを淡路日の出農業共同組合代表理事 相坂有俊氏に伺った。農業共同組合の役割は地域の農業の振興、農業技術の支援、販売の促進、経営の指導などで、現在の農業を知り尽くし、農家には不可欠な存在である。この組合でトップを務める相坂氏に、淡路農業の特徴、抱える問題、これからの農業と消費者の3点を中心に伺った。
淡路島の農業の特徴:
相坂氏は、農業はお天道様次第、肥えた土地次第と話を切り出された。日差しが十分にあたった農産物は美味だとも。また、農作物を植える土地がよく肥えていて水捌けがよいこことも重要で、この2つの点を淡路の風土は満たしているため、米、野菜(玉葱、レタスなど)、果物(琵琶、ぶどう、みかん、イチゴなど)、何を作ってもうまく作れると力説された。土質としては、淡路島全体が古代には海の底にありその後の隆起で作られたため、ミネラルを多く含むことを強調された。また、海に近いことから海風に含まれる塩分も同じ様にミネラル源として有効だという話である。
農産物の栽培には、土と太陽の他に肥料が必要だが、現在は化学肥料が使われている。適切なタイミングで、適切な量の窒素、りん酸、カリの補充が必要だ。特に耕作の前に堆肥を十分に土に与えることを推奨している。堆肥は、農家の周りの草、木木々の葉を集め腐らせて作る。このため、コンクリートの下地を備えた一定の場所が必要で、耕作機械と同様に農業のための初期費用として必要と指摘された。
玉葱を例に耕作の周期を説明してくださった。玉葱は超早世、早世、晩成の3つに分けられ、種は8月下旬から1月おきに植えて苗をさらに1月かけて育てる。それを1月ごとの間隔で元々水田としても使われている耕地の水を抜き、耕して畝に作り植える。3ヶ月ほど経つと追い肥を与え除草を始める。半年後に刈り取り一定期間の風乾の後に出荷する。なお、南淡路で盛んな玉葱作りは、それに先行して盛んになった畜産で排出される糞の処理から始まったと伺った。牛糞は、堆肥として大いに活用されたのである。玉葱の栽培は多くは水田の2期作として行われており、これには意味があるとのことだった。すなわち、玉葱耕作後に水田として水を張ることで、過剰な肥料や汚物は洗浄されてなくなり連作が可能になるという。
抱える問題と新農法の試み:
淡路島の農業の問題について2つの点を中心に指摘された。
1つは肥料の問題である。化学肥料は足りなくても過剰でも良くない。過剰な場合は土壌の化学汚染ということになり、土質の変化で連作が難しくなり、収量が減る。リン、カリュウムなどの原料は多くの場合国外からの輸入に頼っており、不足や高騰の問題を抱えている。これを補完するという意味で、また本来の農業は農作物の自然の中での土中の物質や生物との相互作用によることから、堆肥の重要性を強調された。ただ、堆肥の制作は素人が考えるほど簡単ではないようである。腐葉土中の有機物質がよく分解されないと良い堆肥にならないとのことである。これには、堆肥に含まれる微生物の役割が重要であるという。根粒菌が根にいて、空気中の窒素を有機物に変換することは高校などで習うことである。会長のお話では十分な熟成が堆肥には、求められるという。これを助けるには、土中の微生物を元気にすることが必要で、このための栄養補給物がいろいろな形ですでに市場にはある。パソナ農援隊では、Nパワーと呼ばれる米糠と大豆の糟を主成分とする補給剤を用いて玉葱などの栽培に現在挑戦している。十分にこのような堆肥が使われた玉葱栽培では、根の貼り方が使わないものに比べて明らかによく、味も良いと農援隊で相坂組合長の支援で玉葱を栽培する谷さんは、報告している。こうした堆肥を使えば化学肥料の使用量も減ること、また、まだ知られていない野菜の味という新たな価値に貢献することが期待でき、新しい農法になると関係者は期待している。
淡路農業の問題の2つ目は、少子高齢化で農業の後継者が不足している事である。淡路市では80歳を過ぎても農業で収入を得ている人が同じ年の半数近くいることがわかっている。神戸などの都市では考えられないことである。相坂組合長は、年金受給者は年金の補完に年100万円ほどの収入が淡路の玉葱栽培で可能であると提案された。5アールの栽培で30万円ほどの収入が実際あるという。都市に住む高齢者、退職者が淡路で新たに農業で定年後の生活を夫婦で楽しむのは可能だと強調された。農業の手ほどきや生活は農援隊との連携で可能ではないかとも提案された。
これからの農業と消費者:
すでに記したように、肥料の問題や人手の問題が大切な課題であると指摘してきた。これに加えて組合長は、新たな問題を指摘された。それは農作物のような生鮮食料には避けられない正味期限の問題と形の不揃いなどの問題である。この問題で廃棄される農作物の量は膨大であり、また廃棄を見越した値段設定が高値を呼ぶ事、さらに重要なことは農家の生産意欲を時に挫くという点である。これを消費者が十分理解し、廃棄を減らし、値段から始まり生産者の生産意欲を後押しすることができれば、との組合長の言葉は強く印象に残っている。また、農産物の品質は、結局生産する農家の熱意に大きく依存しているとの貴重な言葉を最後に頂いた。
都会に在住の方、事務仕事に携わる方には実際に農作物の栽培に関わる機会があれば、食料自給、環境の維持、食品の栄養などについて一段進んだ知識を得ることができるのではないだろうか。淡路島のパソナ農援隊では、島内の事務系の職員に週末に手ぶらでできる農作業の機会を現在つくっている。春に植えたトマトやきゅうりを夏に収穫し、秋にはにんじん、じゃがいもを植えて、自分の手による作物の栽培を楽しんでいる。2024年には、滞在施設もでき、多くの方々に同じ様な農作業入門の楽しさを経験してもらおうと計画している。
みんなで農作業:
淡路島の農家レストラン;このレストランの前や横で無農薬の農業の体験ができる。
手ぶらで農業体験の様子;耕されている畑にみんなでトマトやなすの苗を6月に植えた。
植えたあとの畑は、専門家が面倒を見てくれる。
植えて一月後には苗は順調に育っているのを見て、新たに花を苗の合間に植える。
8月には草も生えている。トマトがなっている。畑の様子を楽しみ、草抜きもする。
収穫した野菜。しっかりとした無農薬野菜だ。
とった野菜をその場で食べる。甘くて美味しい。
一緒に農作業をした仲間と歓談する。