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気候変動は日々の暮らしに大きく関わる

 今年の夏の暑さはいつもと違う。神戸市の9月の平均気温はデータを採り出したこれまでの百年間の中で最高の28.5度であった(神戸気象台)。これまでの平均(25度)より3度ほど高く、また8月の平均気温とほぼ同じであった。9月末まで真夏が続いたことになる。こうした異常気象では、農産物の価格が異常になり、日々の生活にすぐに影響する。ただ、昨日食したインゲン豆はペルー産だったように、食物の自給率が半分以下の日本では食物の入手については、気温変化や気象変化と関連することをそれほど切実に感じていないのかもしれない。しかし、千年単位で見ると、日本でも江戸時代に長期の冷害による飢饉で多くの人が亡くなったり、貧しくなることで人身売買まであったという事実もある。こう見ると、今の気候の異常はどのくらい深刻なのか、また今後の予想などを知っておいた方が良さそうである。多くの古気候学と呼ばれる分野の研究者が永い歴史上の気温や気候変化を研究しており、この問題を取り上げて解説書を発表しているのでそれらを参考に見てみたい(参考文献1−3)。

  現在および過去の気候に関する研究成果を見てもっとも納得したのは、恐竜が全盛の時代は気温が今より10度ほども高くこの年代にはアルプスや極地の氷の層はなく、極めて暖ったという事実だろう。この高温環境でシダ類が繁茂し、食べ物が豊富だったために恐竜は巨大な体を支えられたのだという。それに比べると現在の地球は南北の局地に氷はあり、冬は雪が降る。この簡単に理解できる事実から、地球上の温度はかなり大幅な変化をすることがわかる。なお、億年単位に亘る正確な地球の気温変化は、深い地層の岩石や氷河の氷の中の酸素原子の同位体の存在量を分析することでわかるという。これをもとにかなり精密な古気候学が成り立っている。

  古気候学によれば、地球の気温、気候変化はいくつかの要因で変化する。地球ができたのは48億年前で火山活動も盛んな灼熱の地球から低温化が進み現在に至っている。最初の頃は存在しなかった生物が10億年経ってから生まれた。酸素が当初はなかったのが、光合成微生物の発生で酸素ができ、さらに呼吸によって二酸化炭素が生まれ地球の気温や気候が変化した。このように生物の進化も気候変動に寄与する。また、火山活動が生み出す二酸化炭素も温暖化に寄与することになっている。

   こうした、億年単位の地球環境の変化は一方向的だが、地球と太陽の位置関係の変化(太陽を回る軌道の変化や、太陽に対する地軸の角度変化など)が、10万年あるいは1万年、1千年の単位で繰り返し変化し、これが地球上の気温にサイクル的に影響することが、セルビアの地球物理学者であるミランコビッチによって推定された。これによれば、10万年単位のサイクルで気温は温暖と冷涼を繰り返す。現在は古い地層の酸素原子同位体の分析などから、230万年前から始まった寒冷化へ向かう変化の途上にあり、さらに温度は低くなるという(参考文献1)。

図 参考文献1より引用。(上図)億年単位の気温変化。230万年前ごろから始まり現在は寒冷化が進み、そのうちで氷期と氷期の間に現在は位置しているという。(下図)10−20万年単位で気温の上下が繰り返される。現在はそれまでの低温化傾向に反していて、人間の活動による過剰な二酸化炭素排出による温室効果のためと考えられている。

  過去の事実から気温は今後も寒冷化することが予測されていたが、予測される温度変化とは異なる上昇があることもはっきりしている。これは、明らかに人類が生み出す二酸化炭素の量が増え、地球全体が温室のようになる効果(温室効果)のためと考えられている。1億5千万年前や3億年前には極寒の時代があったことが、同位体解析からわかっている。その頃は、地球上のほとんどの生命は死んだかもしれないが、継続していた火山活動で二酸化炭素が増え、温室効果によって再度温暖化に向かったと考えられているので、二酸化炭素が気温変化に影響することは明らかである(参考文献1、2、3)。

  さてこれからの我々を取り巻く気温変化は予測できるのだろうか。研究成果を見ると、人がいなかった頃の気温変化が続けばこれからは低温が進むことになるはずである。しかし、人類の出す二酸化炭素の影響、火山の影響など、未知な部分も数多くあり、正確には必ずしも見通せないというのが、気象学の語っていることである。人類が農耕を開始できたのは、安定な気候が続いたためというのが定説である。これからの予測できないような、すなわち不安定な気象の時代を我々はどのように科学と技術によって克服できるのだろうか。

参考文献、1. 人類と気候の10万年史、中川毅、講談社ブルーバックス(2017)、2. 地球46億年気候大変動、横山祐典、講談社ブルーバックス(2018)、3. 気候変動で読む地球史、水野一晴、NHKBOOKS, (2016))