植物からプラスチックをつくる
淡路島は美しい里山に囲まれている。特に特徴ある山桜が山のそこここに溢れている風景は美しい。この美しい景観に邪魔者が忍び寄ってる。竹である。竹は強い植物で増える一方であり、それは里山の景観を壊している。この竹を切り出して燃料にしたり、最近では竹から炭を造り活用することも進められている。また、古くから竹細工で工夫して利用し、蔓延る竹に対処しようとしている。
実は、竹だけでなくさまざまな植物が、利用されないまま蔓延るためにヒトの生活に脅威になっている場合が沢山ある。道端に蔓延る外来種の植物などである。しかし一方で、植物はヒトにとり大切な資源でもある。空気中の炭酸ガスを吸収し太陽光をエルギー源に糖をつくり生きており、糖をヒトの栄養源のためにお裾わけしてくれる生物(独立栄養生物と呼ぶ)でもある。この植物が造る糖の代表はでんぷんである。われわれヒトが生きる上の必須なエネルギー源である。植物はでんぷん以外にも太陽のエネルギーで体の材料を作っていて、総称してバイオマスと呼ばれている。こうしたバイオマスの代表は、植物が自分の細胞を守っているセルロースである。セルロースは糖の分子が澤山つながったもので、繊維の仲間である。ヒトは、綿を永年衣服の原料として利用してきた。綿は綿の実を守るセルロースである。セルロースは綿以外にもほとんどの植物の細胞にあり、動物にはない細胞壁という構造の主成分であり、細胞の強度を生み出す。アガロースという糖が鎖状に連結した物質である寒天は食用だが、ヒトはそれを消化する酵素を持っていないので、食感を楽しんでいる。このような細胞壁の利用もある。
最近になり地球温暖化から資源としての植物のバイオマスの重要性が見直されている。石油からできるプラスチックの代わりに、植物バイオマスからプラスチックを作れば、もしゴミになって燃やしても発生する炭酸ガスは石油由来のプラスチックと異なり地球に負荷をかけない事になるからである。また、植物からできるプラスチックは廃棄した場合、その一部は地中の微生物が分解することも可能である。ここでは、植物由来の物質の利用について最近の動向を紹介したい。
プラスチックは、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの化学物質であり、私たちの周りにはこれでできたビニール袋や衣服の中、パソコン、車の部品などなくてはならないものばかりである。これらは原料となる石油の中にあるスチレン、プロピレン、エチレンを重合反応と呼ぶ化学反応で幾つもつなげたもので、熱で形状が変化し強度もあり、いろいろなものに形成して使うことができる。しかし、この重合したプラスチックは高熱で焼けば、燃えて二酸化炭素になる。一方、自然の中に放置すると土の中の微生物で壊されることがなく、半永久的に壊れず地球上に残り公害になる。その証拠は淡路島の海岸掃除をするとよくわかる、浜辺には目に見えるものから、数ミリまでのプラスチックの残骸がある。小さいプラスチックの残骸はマイクロプラスチックと呼ばれ海中で魚に食べられ、魚を食べたヒトにも取り込まれることがすでに分かっている。これは、ヒトに癌を引き起こす原因になる。現在の世界の重大な環境問題の一つである。
この問題を克服する一つの方法が、植物バイオマスを原料としてプラスチック(バイオプラスチックとも呼ぶ)を作ることである。先に述べたように、植物のもつ多糖類が石油からのプラスチックに替わり得るのである。植物の多糖類はいくつかの異なる仲間が化学分子としてはあるが、いずれも石油由来のスチレンやエチレンの代わりになり、強度もあり熱で希望のように変形させ素材として利用できる。車の部品に向けた研究も行われている。植物プラスチックは石油プラスチックと異なり、自然界に放置されても土中の微生物の酵素で分解されため、この生分解性と呼ばれる性質が注目されている。
イギリスやアメリカでは、植物プラスチックの製造会社がこの10年の間に幾つも発足している。彼らが特に注目しているのは、寒天の材料である紅藻(テングサ)に含まれカラゲニンや昆布のような褐藻にふくまれるアルギン酸である。いずれも藻類の細胞壁などに含まれ熱やアルカリで溶け出す。アルギン酸を熱で変形し水を入れる容器とし、水を飲んだ後に食すこともできるものが作られている(イギリスのLoliware社の製品NOTPLAから作られる製品Ooho)。また、靴の底敷の素材にもなっている。カラゲニンはもともとアイルランドの藻類から見つかり、食材の粘性をあげたり、乳製品を固めたりして利用する長い歴史がある(カラギナンの特性と利用法、 林良純、繊維と工業 (2009)p412)。日本でもカラゲニンをさまざまな形で利用した製品を生み出しSDGsに貢献したことで表彰されているkimica社(旧君津化学研究所、https://www.kimica.jp/corporates/history/)のようなユニークな会社がある。
海藻由来のバイオプラスチックの他に、植物由来の資源で注目を浴びるのはポリ乳酸である。ポリ乳酸は乳酸菌がつくる乳酸を重合させたものである。乳酸を作るための材料はトウモロコシや穀類のでんぷんである。ビニール袋のようなものもポリ乳酸で作ることができ、この買い物袋は土の中で微生物による生分解を受けることで、環境に優しい素材になっている。ただ、穀物を原材料にすることで、これから人類が直面する食料不足の問題とどのように協調できるかは、課題であろう。