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住む場所と幸福感の関係

ヒトは住む場所によって幸福かどうかに違いがでてくる。これは、古今東西同じであろう。あなたは今の住処に満足し、幸福な毎日をおくっているであろうか。ここでは、人の住み方と幸福に関する3つの最近の研究や活動、著作について紹介したい。

C. Li and S. Managi 論文 Scientific report (2021) 11, 15957、図1の一部 引用

最近九州大学の研究グループが日本全国の1800近い市町村の住民30万人ほどにアンケート調査を行い、現在住んでいるところにどのくらい幸福感(well-being)をもって住んでいるのか調べた結果を学術論文として発表している(Land cover matters to human well-being, C.Li and S. Managi, Scientific reports (2021) 11, 15957)。まずこの研究について簡単に紹介する。この論文の結果の一例として論文内の図1の一部を示してある(図1参照)。この研究では、幸福感は各個人の感ずるものを良い方から悪い方まで5つの段階にわけて自己評価してもらっている。幸福と感じるか、生活に満足しているかを質問するアンケート調査である。とても幸福なら5、不幸なら1ということになる。地域ごとの幸福度と満足度が、このアンケートをもとにその地方の人口あたりの平均値として示されている。平均値は7等分されており、自分が住んでいる市町村でひとびとがどのくらいそこでの生活に満足しているか数値化されている。満足度が高い方が赤色で、満足度が低い方が緑色になっている。この結果を見ると、地域の人口が多い都市化の進んだところほど満足度は一般的には高くなっている。平均的な黄色から、満足度が高い赤までで示されている所である。しかし、この結果では、最も人口が密な東京周辺で最高の満足度が示されているわけではない。これは、人口が特に密集する東京周辺などでは満足度に負の要因が発生するからであろう(満足度評価は下から4番目)。また緑の多い環境では幸福度は高くなっている。興味深いことに、近畿圏とそれに近接する地方は満足度が中の上(7段階の下から5番目)であり、かなり良いといえる。すなわち、東京周辺の人口密集地帯よりは満足度が高い。ところで淡路島住民だが、東京と同じぐらいの満足度(下から4番目になっている)を示している。興味深いことに、いくつかの地方都市の周辺では満足度がもっとも高くなっている(最上位の7、赤茶色部分)。また対馬は、満足度がとても高いとのデータである。日本海の離島である。従って、結果は単純ではなく、各地域についてそれぞれの特色があるはずで、詳しく見てみる必要があると感じられる。

大都市の一つ 神戸

この研究では、JAXA(宇宙研究開発機構;https://web.pref.hyogo.lg.jp/governor/documents/000162951.pdf)の宇宙衛星ランドサットが30m単位の解像度で撮影した地表の様子と生活満足度とを関係づけて解析している。地表の様子(Land cover)については、建物、畑、水田、空き地、林野のどれに相当するかを指標にしている。これらのデータと自己評価アンケート結果を関連づけて解析し、建物が多数ある都市化した地帯では建物が少ない過疎地帯より人は一般的には生活に満足度が高い、というのが結論である。一方で、上記のように東京や大阪など極度に都市化が進んでいる地帯とは別に、いくつかの地方都市周辺で大都市よりも高い生活満足度が示されている(赤茶色部分)。上記のように対馬は満足度が高い。また空き地や田畑の多いところでは生活満足度は低いように見られる。著者らは、都市化が進むことで、その地区の住人の収入が上昇し、満足度を上げる要因になっていると指摘している。また、単位面積当たり都市化によってどのくらい収入が増加するかを示している。こうした結果を地方自治体は政策決定に際して参考にすることができるであろう。しかし、いろいろな考察が必要であろう。

緑に囲まれた環境

 淡路島は、この研究の結果では、それほど市街地は多くないが、生活満足度は東京に近い平均的なものである。ただし、いくつかの地方都市の周辺のような高い満足度を示しているわけでもない。

淡路島の緑の公園

 この研究から思いつくことが2つある。1つ目は、そもそも生活満足度とは何かということである。2つ目は、都市化がそれほど進まないところで、都市化に代わる、あるいは都市化による幸福感を補完するものはないのか、という問題提起である。

1つ目の問題に対する答えは、都市化の進んでいない地方で、お金をかけずにどうしたら満足のいく生活がおくれるか?であろう。それは、生活に対する満足の視点を都市化したところにいるのとは変える、あるいは変わるということであろう。例えば、淡路島では先に示したように80歳以上になっても農作業をして生計を立てる人の割合が多い(新着情報2020年3月20日参照)。これは、1つ目の問題に対する答えの一つではないだろうか。人口密集の大都会から離れ、収入は都市ほど多くはなくても淡路島のように“老後は自分の生きる分の食糧を作りながら生きることができる”場所に移ることが、一つの喜びになるのではなかろうかということである。

2つ目の問題に対する答えもコロナが起きたために解決の緒が見える。それは、インターネットを使った遠隔就業やそれによる収入の増加である。また、音楽や演劇などの芸術の配信による新しい楽しみの発見である。これらはコロナ後には以前よりはるかに非都市部で生活を楽しむことができるということを暗示している。しかし、過疎地帯では人の集まりによる助け合いは都市より難しいという問題もある。これもデジタル技術の発展で、このコミュニティーを作ることが過疎地帯でもやり易くなろう。上記の第2の問題の解決の一つの方策がこのようにすでに示されている。ソーシャルネットワークシステム(SNS)があれば、人の輪を作るのに良いと思われるのは、都会だけでなくむしろ過疎の地方であろう。

2つ目に紹介するのは、山田貴宏氏による“エコビレッジとパーマカルチャー”(農村計画学会誌、(2011)30、50−55)に関する論考である。この論考の中では、ハイテク化した都市生活は、日常生活として限界に近づいているとの主張がなされている。これを打破し、精神的に安定した生活、資源を必要以上に消費しない生活(持続型社会)が、これから不可欠であると述べられている。その方法の模索は世界的に行われており、著者らも自らモデルとしてエコビレッジとよばれる循環型農業を生業とする実験村を神奈川県藤野市につくっている。そこでは、古民家を利用し複数の家族が一緒に住む長屋形式がとられており、家族間で共有するスペースをつくっている。住む人の輪、コミュニティーにより助け合うことが可能になっている。

現在の人間の凄まじい経済活動から、地球上の資源がなくなってしまうという恐怖は誰しもが感じることである。エコビレッジの運動に示されるように先進的な考えの人たちは、この危機に対処しようとすでに立ち上がっている。また、国連もこの危機をすでに察知してSDGs(Sustainable Development Goals, 持続可能な社会の発展のための17の到達目標)(https://miraimedia.asahi.com/sdgs-description/)を2015年に策定している。その内容である持続可能性とは、経済、環境および社会の持続性に関することである。自分の生活が幸福であるには、世界規模で環境や社会が持続可能でなければならないと世界中の人々に突きつけているのでる。ただ、人が住んでいる環境は、その土地に置かれた自然環境、経済、政治などが複雑に絡んでいて、一言では持続可能な社会を築く方策について述べることはできない。

櫻井美穂子著 表紙一部引用 (2021)学芸出版から

3つ目に紹介するのは、上記に関連して、SDGsを念頭に置いて都市の機能と価値を改善しようとしている世界中のいくつかの都市を紹介する著書である。(世界のSDGs都市戦略、櫻井美穂子、 (2021) 学芸出版社、京都)。価値のある持続可能な都市とは、この書ではレジリエンスのある都市であるとしている。レジリエンスとは、本書では“個人、コミュニティー、組織、ビジネス、そして社会システムが、社会課題に適応しながら持続的に成長していく能力”と定義している。こうみるとSDGsとレジリエントな都市とは重なっている。アメリカのロックフェラー財団は、“100 Resilient City(100RC)” プログラム(https://www.rockefellerfoundation.org/100-resilient-cities/)を提案し、世界の100都市をレジリエンスを目指すモデルとし、支援を行っている。詳しい内容は多岐にわたるので本書を読んでいただきたい。本書で述べている重要なことを2つだけここでは紹介する。1つ目は、各都市の適応すべき社会課題を、ストレスとショックとに分けていることである。ストレス課題とは人口の増加あるいは減少、社会インフラの老朽化などである(長期的課題)。一方、台風、地震などの災害はショック課題と位置付けている(短期的課題)。こうすることで、自分の所属する地区の課題の整理とモデル都市の課題解決への試みを参考にしやすい。日本では、鎌倉市と京都市がモデルとして挙げられている。2つ目は、100RCプログラムでは各都市の課題と解決策を短い標語で表すことが求められていることを紹介している点である。課題解決の方策はいろいろあるが、本書では、各都市がデジタル技術の応用に力を入れていることに特に注目している。

このように世界を見回すと自分の住む環境をSDGsに対応して改善しようとする多くの試みがあることがわかる。淡路島でもSDGsを意識して淡路島の3つの市と兵庫県が共同で、環境改善の標語を出している。すなわち、2011年には“淡路環境未来島構想“(https://www.awaji-kankyomiraijima.jp/)を発表し、“暮らしの持続、エネルギーの持続、食と環境の持続”を目指そうと呼びかけている。また、2020年には、健康な社会を作ることを目標に、“生涯現役、あわじ健康長寿の島作り”(https://web.pref.hyogo.lg.jp/governor/documents/000162951.pdf)を呼びかけている。こうした目標を本当に実現できれば、淡路島は健康生活が可能な良い地域社会の見本となるだろう。