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代替肉とは何か?

  淡路島は、とても美味な淡路牛や牛乳の名産地として知られている。関西のスーパーでは、他の産地のものと比べると値段も一段上であり、産業として今後の発展が期待されている。一方、目を世界に向けると牛や豚、鳥などの畜産肉に変わる代替肉の研究や生産が進んでいるのがわかる。スーパーの食品売り場では、食肉売り場に代替肉のコーナーができ、ハンバーガーショップでは代替肉ハンバーガーが売られている。ここでは代替肉とは何か、またなぜ代替肉が売られ、購入者も増えているのかについて触れたい。

淡路島でのビーガン料理 ハローキッティーショウボックス

  代替肉とは現在の食肉の主流である人工飼育された牛、豚、鶏などに変わり、人間に必須な栄養素であるタンパク質を別なものから取る場合について言われるものである(遠藤真弘著、代替肉の開発と今後の展開 国立国会図書館 調査と情報 (2020) 1113号)。代替肉としては、3つのものが現在研究もしくはすでに販売されている。一つ目は、大豆が代表する植物性のタンパク質であり、肉の形に加工されている。勿論豆腐は伝統的な大豆タンパク質の食品である。2つ目は牛や豚の筋肉細胞を工場で培養し、肉とすることである。3つ目は、微生物を培養したものであり、ユーグレナや酵母、光合成細菌あるいはある種の糸状菌類などがその例である。食料として供給するには、トンの単位の量が必要であり、その技術の進歩は進んでいる。また、肉としての風味や食感は消費者には大きな問題である。この点もいろいろな工夫がなされている。風味には血液細胞のヘムがあることが寄与しているとの研究があり、人工的にヘムを加えている。売り出されている代替肉ハンバーガーは、本当の肉と区別ができない次元に達しているという。実際市販の大豆タンパク質を使ったハムカツを食べてみた。肉の感じがありいけると思わせるものがある。

  ここで疑問はなぜ今代替肉が普及し出し、その未来はどのようなものなのかという点ではないだろうか。その理由としては、2つほどありそうである。一つは欧米に発するビーガン(動物の肉や牛乳など動物性食品を一切食さない人たちのこと)のように、動物から命をもらうことに対する抵抗や反省で、植物性のものに徹する食生活を是とする流れである。この流れには、植物性のもので食生活において十分なタンパク質が摂取できるとの信念も根底にある。欧米では全人口の3%ぐらいがビーガンとする報告もある。日本では、150年前に明治維新が始まる前は、仏教を国是とし肉食を悪とする精神的な背景があった。このため、植物性のものに食事を変えることに対する抵抗は欧米に比べ少ないかもしれない。一方、この流れとは異なる別の理由で、代替肉の流れを支持している人々がいる。それは、地球の資源の枯渇、地球温暖化などを問題視する人々である。牛や豚の肉を生産する畜産では、大量の水の使用、飼料の生産のための耕地の拡大が問題となっている。その結果、大規模な森林伐採や飼料生産によるヒトのための食料穀物生産への圧力が生じている。現在地球上の耕作地の半分以上は畜産の餌の穀物(とうもろこしが多く、牧草も多い)の生産に使われているという。また、多数飼育される牛のゲップは地球温暖化に悪影響を及ぼすメタンの大量の発生を促している。畜産に伴う排泄物や汚水の処理も大きな問題となっている。最近のNature誌には、これらの問題を解決する一つの方法として、微生物の培養によるタンパク質の生産、肉への加工が取り上げられている(Projected environmental benefit of replacing beef with microbial protein, F. Humpenoeder et al. (2022) 605, p90-98)。具体的なシュミレーションによりもし工場で微生物を培養し地球上で消費されるタンパク源をこれで賄うとした場合の試算がなされている。それによると、人間が必要とするたんぱく質源の20%を微生物による代替肉へと置き換えると2050年までに牧草地の拡大の大幅な抑制と人間の食糧穀物生産の増加、それによる森林の伐採の抑制によりCOの排出が半減し、メタンの放出も削減できるという。

 ここで微生物を使った代替肉とはなにかT. Linderによる論文(Making the case for edible microorganisms as an integral part of a more sustainable and resilient food production system, (2019) Food security, 11, p265-278)を参考にもう少し触れたい。上記のように、代替肉のタンパク質源として、酵母菌、光合成細菌、糸状菌などが用いられている。これらの微生物は工場でタンク培養ができる。タンパク質の含量は菌体重量の30−60%である。タンパク質の他、脂質やビタミンの含有でも有用となっている。タンパク質は含有するアミノ酸の組成により、人間にとって良質なものかどうか判断される。動物性のタンパク質は人間に必要な必須アミノ酸の含量が高くまた消化しやすいのに対し、植物性のタンパク質は必ずしも含量が高くなく消化効率も高くない。糸状菌由来のタンパク質ですでに市販されている代替肉では動物性タンパク質ものと必須アミノ酸含量と消化のし易さという指標では遜色ないことが示されている。(米国での市販微生物由来の代替肉の例;(商品名と使用した微生物)Quom, 糸状菌、Marlow Foods社; Spirulina, 光合成細菌、数社; Uniprotein, メタン資化菌、Uni Bio社)微生物の工場生産では、必要となるものは微生物の栄養となる糖分とCO2、光合成細菌では光とCO2、メタンを栄養源とするメタン資化菌ではメタンである。このためブドウ糖の一部を除いて、畜産で必要な穀物のように人間の食料供給にはほとんど影響しない。タンパク質を得るための別の方法である動物細胞の培養は高価な栄養素を加える必要があるが、微生物ではそれがないなどの特徴がある。

市販の大豆ミート

 市販の代替肉のハムカツを食してみると、本当の肉の食感があり、脂肪分が動物肉より少ないので食後の感じもさっぱりしている。これから地球の人口は増え続ける。微生物などの工場生産による安価なタンパク質とそれを用いた代替肉の普及は想像より早くに現実になる予感もする。