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人類における偉業はいつなされたのか?

 ベートーベンやモーツアルトなどの偉大な音楽家、アインシュタインや、ニュートンなどの科学者の名前は誰でも知っており、彼らが現在の人類の知識や芸術に貢献したことは明らかである。こうした傑出した才能は、いつ花開きどのような背景が各人にあったかは誰しも興味がある。実際、詳細な研究も行われていて、繰り返し研究論文が発表されている。最近も科学雑誌Science誌に、“人間の最高レベルの能力の獲得に関する最近の発見”(Recent discoveries on the acquisition of the highest levels of human performance”)と題する論文が発表されている(Arne Guellich et al. (2025) Science, December 18th)。また、“科学における創造性の年齢による変化”(Age dynamics in scientific creativity、B.F.Jones and B.A. Weinberg, (2011) Proc. Natl.Acad.Sci. 108, 18910-18914)という論文も発表されている。

 こうした研究で明らかになった偉大な科学者による偉大な発見や、芸術家による素晴らしい作品が発表された背景、特に年齢と経験の特徴について少し見てみたい。これから人生の活動を本格化しようとしている若者には参考になるかもしれない。

  Jones等の論文によれば、科学や文学などの分野での傑出した結果は30歳代後半にピークがあると指摘されている。いくつかの研究から物理学では37歳前後、医学では39歳前後、化学では40歳前後とされている。一方20歳代でブレークスルーをする場合もあり、50歳代で偉大な作品を残す場合もある。Guellichらの論文では、若い時に最高の能力を示す人が、高年齢でまた傑出した結果を残すケースは多くなく、2つのピークのどちらかで人は偉大な結果を残す場合が多いとしている。また、高年齢で成果が上がる場合、若い時から同じことをしているのではなく、むしろいろいろ異なる分野を学んでいて、時が経ってから専門分野に深く入る場合が多いという結果が示されている。興味深いことである。

  どのような偉大な才能の持ち主も誰かに始めの手ほどきの教育をうけ、その後に早くにまたは遅くにその才能が開花していることは一般的に確かである。従ってどのような分野でも初期教育が重要であることはいつも変わらない。芸術、科学などの文化が素晴らしく発展した現在、それぞれの出発にあたって高度な知識を得たりさまざまな高いレベルの作品に遭遇することは、以前に比べて例えようもなく重要と考えられる。

  ここで才能の開花と現代の教育という点に焦点を当てたい。現在この高度化した文明の中で専門性を出発の段階で学べるのは、大学院である。大学の学部で学べることは、教養の範囲(一般的な知識)を出ていない。より専門的な知識や論理性、発表能力の涵養には大学院で学ぶことが不可欠である。音楽や絵画の分野でも同様である。経済の分野で欧米の経営者の20−30パーセントは、修士課程(MBA)で学んでいる。また、欧米の修士課程は博士課程の中途退学とみなされているので、博士課程への進学者も多い。大学院では、文化系、理科系を問わず特定の問題を提起し、それを解決する方策や考え方を提案し、論文として発表する能力を学ぶ。当然、提案した結果に対する批判にも応えなければならない。こうした一連の系統的な教育を受けることの重要性が日本では認識されておらず、大学院への進学者は多くならない。経営陣で修士課程まで学んだ人は、欧米の1割にもみたいないというデータがある。これまでの多くの経営者は現場で学ぶ経験知を日本ではとりわけ重要視しており、科学的、理論的に学ぶことの必要性が、欧米のように認識されてこなかったためである。世界を変える大きな成果を生み出すためには、その第一歩として大学院進学の増加を願いたい。2000年代初頭から文部科学省は研究者養成を目指す従来の大学院とは異なり、実務を重視した大学院として専門職大学院という分野を作り、実務経験者を教員として多く採用する大学院を作り、現状を改革しようとしている。