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タウリンには寿命を永くする効果がある。

  タウリンは、アミノ酸によく似た構造を持つ化学物質で、われわれの体の中には数十グラムが常に存在する(図アミノ酸とタウリン)。薬局やコンビニではタウリンが入った栄養補給剤がよく売られている。タウリンは植物には入っておらず、タコやイカなどの水産物に多く含まれている。タウリンとはどのようなものなのだろうか。最近世界のトップの科学研究雑誌サイエンスに膨大な量の実験を伴う研究論文が発表され(P. Singh et al. Taurine deficiency as a driver of aging, Science (2023) 9 June issue)、老化にタウリンが関わること、タウリンの摂取が体のいろいろな機能を上げることが明らかにされたので紹介したい。

  タウリンは、アミノ酸によく似ているが、タンパク質には取り込まれていない。細胞内の浸透圧のコントロールに関わっているらしい(運動とタウリン研究の最前線〜多彩な生理作用に迫る。大森 肇、八田秀雄 体力科学 (2020)69、p123)。ヒトは細胞の中でシステインのような他のアミノ酸からいくつかのステップを経て合成される。生まれた当初の含量はすくなく、ヒトは生れてから母乳に沢山あるタウリンを摂取して体内量を確保する。この時の血中に占める割合を100とすると、60歳では血中量は20%程度と低くなり80%がなくなっていることがわかっている。すなわち、老化に伴い体内のタウリン量は確実に減っている。赤ちゃんの肌の潤いなどに関係がありそうである。加齢によるタウリンの減りは、ネズミや実験に用いれられる線虫でも現象が観察されている。

  それではタウリンは体の中で何をしているのだろうか。猫はヒトと違いタウリンを他のアミノ酸から体内でつくることができない。このため体外からタウリンを細胞内に取り込むことが必要である。これを利用し猫の細胞膜にあるタウリンの輸送のために必要なタンパク質の遺伝子を人工的に破壊し、タウリンが細胞に入れない猫を作ってその効果を調べた。その結果、猫は目が見えなくった。おそらく目の中の潤いが減少し、失明したようである。マウスを用いた同様な実験では、タウリンの細胞内への輸送タンパク質の遺伝子を壊したマウスでは寿命が短くなり、筋肉の老化がおこり、細胞内のミトコンドリアの機能低下や栄養となる糖分子の利用が抑えられていた。脂質の利用も抑えられていた。こうした結果、細胞の機能が低下する。ヒトの体では、骨、筋肉、膵臓、小腸、脳や免疫組織にタウリンは多く含まれているので、タウリンの減少がこれらの機能の低下につながることは十分に考えられる。

  そこで、マウスを使って加齢にともなうタウリンの減少を食事で補って、その効果を、与えないものとの間での違いを死ぬまでの長期に渡って比較した実験結果がサイエンスに発表された論文(P. Singh et al, Science (2023) 9 June issue)に述べられている。それによると、タウリンを与え続けたマウスは、寿命が1.1から1.2倍ほど延長されていた。ヒトに換算すれば、100歳の寿命が110歳から120歳に伸びたことになる。興味深いことに、タウリンを摂取した場合、高血圧の低下、血糖値の低下、肥満の減少、肝臓機能の低下が抑えられていた。これらの機能については、この論文では細胞内の分子レベルでの変化を、例えば遺伝子の機能発現に必須な因子の増加やDNA(染色体)の加齢に伴う短縮効果などについて調べられていて、タウリン投与による明らかなプラスの変化が見られている。この論文の内容は、科学的に高いレベルのものと言えよう。著者らは、ヒトにおいてタウリンの投与と寿命や生理機能に関する研究が今後できることを望んでいる。しかし、これを待つまでもなくタウリンとヒトの寿命の増加と体の活性化には、この論文の結果を見る限り大きな関係があると言えそうである。これまで、寿命に関わるビタミンの仲間を紹介した(2020年11月27日新着情報参照)が、また、わたしたちの健康に関わる重要な日常の栄養素にもう一つ科学的に根拠をもったものが明らかになったと言えよう。