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コロナウイルス感染で重症化するのはどのような人か?

   2022年の夏を迎えてもコロナ禍は過ぎることなく続いており、感染で不幸にも亡くなられるかたもおられる。ここでは、感染した場合重症化する人とそうでない人についてどのような違いがあるのか、その遺伝子の特徴から解析した最新の研究成果を紹介したい。なおコロナウイルスが、ヒトの免疫機構を回避し変異を繰り返すことについても研究が進んでいるがここでは触れないことにする。(参考;新型コロナウイルスの免疫回避機構と重症化メカニズム、荒瀬尚医学のあゆみ 280, p955-961 (2022)).

 厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症対策などをアドバイザリーボードからの意見を入れて、ホームページに開示している(厚生労働省 https://mhlw.go.jp)。この中で、感染後の重症化リスクについて、次のような場合をあげている。すなわち慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、脂質異常症、高血圧、慢性腎臓病、肥満、喫煙、免疫抑制などである。これらの要因がある場合、このようなリスク要因がない人にくらべて、致死率が顕著に高くなることを、年齢別に示している。65歳以上では、慢性腎臓病があったり免疫抑制があると、致死率はリスクのない人に比べて、2倍から3倍に上がっている。このほか、悪性腫瘍(がん)があれば2倍に、肥満でも1.4倍に増加している。40−49歳では、慢性腎臓病があれば20倍、糖尿病では9倍、肥満では14倍と致死率は高くなっている。

厚生労働省のホームページに掲げられている重傷者リスクへの呼びかけ
重症化リスクのあるヒト

  こうした観察結果を説明するようなもっと詳しい解析が最近のNature誌に論文として発表された(Whole-genome sequencing reveals host factors underlying critical COVID-19, A. Kousathanas et al. Nature 607, p97-103 (2022)). ここではこの内容を簡単に紹介したい。この研究では、7491人のコロナ感染後に重症化した人と、48400人の重症化に関係しない比較対象とした人々の全ゲノムDNA塩基配列の決定と比較を行ない、結果を解析している。それによると、重症化した人には、そうでない人と異なる遺伝子の構造配列やタンパク質の細胞内での合成量に違いがあった。特に23の遺伝子に違いがあり、今までに特に考慮されていない遺伝子16について指摘している。こうした遺伝子群の機能について見て、大きく分けると2つの機能グループ群に分かれると考察している。グループ1;コロナウイルスが感染後に増えるのを抑える働きに関係するもの。または、肺炎が起こりやすくなる因子。グループ2; 血液の凝集に関与するもの。

論文に記載された重症化に関係する遺伝子の2つのグループ

  1番目グループの遺伝子は、具体的には免疫に関与する白血球が増えるためのタンパク質の遺伝子などである。白血球とは、抗体を作ることに必要なBリンパ細胞やウイルス殺傷に関与するTリンパ細胞や樹状細胞である。これらの細胞が十分に増殖し発達することが、コロナの撃退には必須である。重症化リスクのある人では、こうしたこと(増殖と発達)に必要ないくつかのタンパク質に変異があり機能が低下していると指摘している。1番目の遺伝子群の他のものとしては、ウイルスを殺傷するタンパク質としてしられているインターフェロンの遺伝子が挙げられる。この場合、インターフェロンの能力が落ちる変異が認めらる。また、インターフェロンがコロナに感染している細胞に作用する場合、インターフェロンは細胞の受容体に結合する必要がある。この受容体タンパク質の機能が低下する変異なども見出されている。

 2番目の遺伝子群は、血液凝固に関与するタンパク質の遺伝子であり、その中に機能低下の変異がある場合である。たとえば、血液凝固因子8や血小板の血液凝固因子などが挙げられている。これらの血液凝固に関与するタンパク質に異常がおきると、肺の末梢血管内で血液凝集が起こりやすく肺の酸素交換機能が低下し、酸素不足を招くことになる。重症化した場合には、人工呼吸器による酸素の補給が必須になることはすでに良く報道されていることである。

重症化に関係する変異のある遺伝子の名前

  今回発表されている研究結果をみると、リスク要因の高い人は免疫能の低下する老人のなどすでに理解されていることとよく一致する。さらに、具体的なタンパク質の機能のレベルで重症化のリスクが把握されているので、免疫の活性化やインターフェロンの投与、血液凝固の抑制, 新規薬剤の開発などの具体的方策が考えられる。参考までに重症化を防ぐ方策としては免疫能を上げる必要があるのだが、ワクチンの摂取の他にビタミンDの摂取が効果があるとの論文もある(新型コロナウイルス感染症予防および重症化軽減におけるビタミンDの臨床的意義、蒲原聖可 日本総合医療学会誌 13、p103−117(2020))。

  今回掲げたNature誌の論文では、コロナに限らずなんらかの感染症が起こった場合パンデミックを避けるために各ヒトの全DNAの塩基配列情報を重症化する人とそうでない人で比較することで個別に対処ができるのではないかと提案している。最新の生命科学の知識はますます人類の医療に貢献できると考えられる良い例ではないかと思われる。